周囲を海に囲まれた能登半島に、ただひとつ存在する山あいの集落。それが、「柳田村」(現:能登町)です。この町の特産品ブルーベリーは、国の減反政策により1983年から栽培が始められました。今回は、亡き父の後を継ぎブルーベリー農家を志した「ひらみゆき農園」代表の 平美由記(ひら・みゆき)さんに、ライター澤あきこ(さわ・あきこ)がお話を伺いました。
目次
父の死とお客さまからの1本の電話~ 偶然にみちびかれ農家となる
プロジェクトに参加して気づいたブルーベリーの新たな可能性
ひとりの農業から、みんなと一緒の農業へ
能登のブルーベリーをもっと広めるために、未来へ向かって動きつづける
父の死とお客さまからの1本の電話~ 偶然にみちびかれ農家となる
「ひらみゆき農園」代表の 平美由記(ひら・みゆき)さん
澤あきこ(以下、澤) :平さんがブルーベリー農家になられた経緯をお聞かせいただけますか?
平美由記さん(以下、平) :平成22年の夏、ブルーベリーの収穫の終わる頃に、農園を営んでいた父が事故で亡くなったのが始まりでした。
実家では祖父母の代からブルーベリー栽培を手がけていましたが、私はずっと事務職だったので、農家の仕事には詳しくありません。
働き手のいなくなった農園をどうしようかと決めかねていたら、翌年の夏に、お客さまから注文の電話が入ったんです。
受話器の向こうに、ブルーベリーの到着を待ってくれている人がいる。
それなら収穫をしようかと、平成23年からブルーベリーと関わるようになりました。でも、まさか自分が農家になるとは思ってもいませんでしたね。
澤 :いくつもの偶然が重なって、農業にたずさわるようになったのですね。農作業は、どのように覚えられたのですか?
平 :農業初心者だったので周りのブルーベリー農家の方たちに、ブルーベリーを育てる方法、肥料のやり方、草刈りの仕方などを一から教えてもらいました。皆さんに助けてもらい、今でも感謝しています。
ただ、柳田村周辺では農業の担い手の高齢化が進んでいたため、同世代で農業の仕事に就いている女性はいませんでした。だから、「この先も(農業で)やっていけるか」、ずっとひとりで不安を抱えていましたね。
そんなときに女性農業従事者を支援する「公益財団法人いしかわ農業総合支援機構」事務局から、物づくりプロジェクトに参加しないかと声をかけてもらったんです。
澤 :平成27年4月に始まった「石川なないろ~I☆M☆J~」と(株)ルバンシュ共同の、【『畑の国のアリス』 農業女子いしかわ】ハンドクリーム開発プロジェクトですね。
平 :今になって思いかえすと、この活動に参加したことがブルーベリー農家としての転機でした。
プロジェクトに参加して気づいたブルーベリーの新たな可能性
左から2番目が平さん
澤 :プロジェクトの一員となられて、心境はどう変化しましたか?
平 :身近には農業女子がいなかったので、仲間と出逢えて嬉しかったです。栽培する農産物は違っても、「農業」のくくりで集まっているから悩みは同じ。お互いの話を聞いて刺激を受けましたね。
ハンドクリームの開発も興味深くて、共同作業を通じてメンバーとの絆も深まりました。皆で集まるのを楽しみに、ほぼ1年間皆勤で金沢に通いました。
澤 :車で往復6時間もかけて毎回参加されるほど、有意義な取り組みだったんでしょうね。
ところで『畑の国のアリス』には、平さんの農園で採れたブルーベリーの果実エキスが入っていますね。
平 :「せっかくだからメンバーの作る農産物も製品に入れたい」と、千田社長がおっしゃってくださり、いくつか効能をテストしたところ、ブルーベリーの抗酸化作用と紫外線防止効果が注目されました。
その結果、ブルーベリー果実エキス配合のハンドクリームが製品化されました。
私はこのときに、「ブルーベリーには、もっと可能性があるのではないか」と閃きました。
プロジェクト参加前には、ブルーベリーの用途といえば食用のものしか思いつきませんでしたから、一気に視野が広がったんです。
澤 :化粧品開発に関わったからこそ得られた気づきですね。プロジェクトに参加した甲斐がありましたね。
平 :実は当時、農業を続けるかどうか迷っていたんです。けれども、ハンドクリーム作りを通して様々な人たちと出逢い、ブルーベリーに新たな可能性を見出せたことで、揺れていた気持ちが定まりました。
平成28年3月3日の『畑の国のアリス』完成お披露目会に合わせて、父の代からの「原農園」から「ひらみゆき農園」に名称を改め、本格的なブルーベリー農家としてのリ・スタートをきりました。
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農業に従事する女性たちと、ルバンシュのコラボレーションで生まれた、やさしさいっぱいのハンドクリーム。1,500円。
ひとりの農業から、みんなと一緒の農業へ
澤 :農園名を変更されてからの活動について教えてもらえますか?
平 :畑にいるだけでは人とはつながれないけれど、一歩自分で踏み出せば、たくさんの人とつながれる。
そう学んで以来、たくさんの方を巻き込みながら農業をしています。今では農園の仕事も、女性4人にお手伝いしてもらっています。
また昨年の夏と秋には、生産者と消費者をつなぐ特定非営利活動法人「アグリファイブ」主催で、「農業体験」ツアーを実施しました。
澤 :参加者はどのような方たちですか?
平 :お母さんと一緒に来られた男子高校生や40代の男性会社員の方など、石川県はもちろん東京からも、農業に興味のある方がご参加くださいました。
夏には草むしりと実の摘み取りを、秋には苗木の定植体験をおこない、定植作業では自分の植えた苗木に会いにこられるよう、目印の札も立ててもらったんですよ。夏には能登牛と地元の野菜でBBQを楽しんでいただきました。
最初は農作業でお金をいただけるのか半信半疑でしたが、満足そうに爽やかな顔で帰っていかれる皆さんの様子を見て、農家と参加者、どちらも嬉しいWIN-WINの関係が成り立っていると確信しました。
アグリツーリズムは、2018年も取り組んでいきたいです。
澤 :参加者の方々にとっては、貴重な体験だったでしょうね。
平 :曲がりくねった山道を通って農園まで車でお連れするんですが、まずその道中から「すごいところまで行くね」と、わぁーっと歓声が上がるんです。
見渡す限り山と空だけに囲まれた畑での農作業は、自分にとっては当たり前でも、外から訪れる人にとっては、滅多にできない新鮮な体験なんですよね。
皆さんの反応をみて地元の良さも再発見できて、誇らしい気持ちになりました。
澤 :いいお話ですね。里山と農業の魅力を伝える活動以外にも、何か試みていらっしゃるものがあれば聞かせてもらえますか?
平 :今年度は石川県の6次化(農産物の加工・販売)トライアルで、規格外で出荷できない実を利用した、ブルーベリーソースの製品化に取り組みました。
今月の14日から、金沢市内のデパートで製品のテスト販売をします。
他には県内の大学や企業のご協力をいただき、ブルーベリー果実を使った染色にもチャレンジしています。
食品開発については、私はお菓子作りが苦手なので得意なママ友に、「一緒にブルーベリーのソースを作らない」と話を持ちかけました。スイーツを入り口に、農作業にも興味を持ってもらえるように、いま働きかけているところです(笑)。
染色のアイディアは、ソースを作る作業でアクをとりながら、「綺麗なアク。これで布を染めたら面白いよね?」と皆と話すなかで浮かびました。
ソースから染色へ、違う分野に発想が広がっていく点は、女性メンバーならではの強みだなと思いましたね。
能登のブルーベリーをもっと広めるために、未来へ向かって動きつづける
澤 :平さんは、農業の魅力や素晴らしさとは何だとお考えですか?
平 :農業はいろんな意味で「自由」ですよね。私の場合には、7月~9月にかけてのブルーベリー収穫時期に仕事に追われることもあります。それでも、自分で作ろうと決めれば何とか時間を捻出できますから。
それに、農協などに一度に出荷するスタイルではなくネットや電話を利用してブルーベリーを直販しているので、お客様との触れ合いやご縁を大事にできますし。
田舎暮らしも好きなので、自分には農業が向いているのではないかと思います。
あと自給自足が成り立つのも嬉しいですね。主人の両親と同居しているんですけど、お義父さんたちが育てた野菜を家族全員でいただいています。
「家族の作った農産物を食べられる有難さ」は、自分も農家になったからこそ、わかるようになりました。
澤 :作り手の顔が見える作物を、毎日食べられる生活は本当に豊かですね。最後にこれからの目標について、聞かせてもらってもよろしいですか?
平 :私はパートで事務員もしているんですが、ブルーベリー農家を生業とするために、まだ誰もしていない分野にも挑戦していきたいです。
初めは父の農園を継ぐために始めた農業ですが、今は能登の特産品のブルーベリーを広めたい、守っていきたいと思っています。
澤 :平さんの活動を、ぜひ私にも応援させてください。
【「ひらみゆき農園」からのお知らせ】
平成30年2月14日~2月26日に、名鉄エムザ地下催事スペースで、6次化トライアルに参加している他の農家さん10組と共に「ひらみゆき農園」のブルーベリーソースとシロップ漬けの販売会が行われます。
平も店頭に立っておりますので、お気軽にお声掛けください。
現在農園のブルーベリー・加工品は、以下のショップで取り扱っております(生のブルーベリーは収穫時期の夏場のみの販売となります)。なお、お電話での注文もうけたまわります。
♦実店舗 (株)六星
♦ネット
YAHOOショッピング「能登ブルーベリー ひらみゆき農園」
夢農家「ひらみゆき農園」
※毎週水曜日15時から金沢市横安江商店街で開かれる『よこっちょ・ファーマーズマーケット』マルシェで、生のブルーベリーに加えて加工品の販売も予定しています。
旬の時期には金沢市や小松市のケーキ屋さん・レストランに、農園のブルーベリーを使ったスイーツが並びます。無農薬で育てた甘味の濃いブルーベリーを、皆さまにも一度味わっていただけたら幸いです。
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農業に従事する女性たちと、ルバンシュのコラボレーションで生まれた、やさしさいっぱいのハンドクリーム。1,500円。