「暮らしを犠牲にして働く」生き方から舵を切り、「暮らしも仕事も楽しむ」方向へ人生を鮮やかにシフトさせたご夫妻がいます。効率やスピード重視の毎日を卒業して自然と共生するスローライフを実践されている、農事組合法人「蓮だより」代表理事 川端 崇文(かわばた・たかのり)さんと奥様の川端美希子(かわばた・みきこ)さんに、ライター澤あきこ(さわ・あきこ)がお話を伺いました。
目次
後悔するような人生は送りたくない、28歳の決断
共働きサラリーマン家庭から、夫婦で農業を営む暮らしへ
自然と共に生きる暮らしと農家時間
自然と人とつながり、そこから世界が広がっていく
後悔するような人生は送りたくない、28歳の決断
農事組合法人 蓮だより 代表理事の川端崇文さん(左)、奥様の川端美希子さん(右)
澤あきこ(以下、澤) :ご夫妻が加賀れんこん農家になられたきっかけを教えてもらえますか?
川端 崇文(以下、川端崇) : 僕の実家は兼業農家で、小さい頃からお米と触れ合う機会がありました。祖父母も家庭菜園程度にれんこんを作っていたので、心の片隅では「農業にたずさわりたい」とずっと思っていました。
とはいえ、それで生計を立てるのは難しいだろうと半ばあきらめながら、会社員をしていました。けれど、28歳のときに「人生⅓きたな、後悔するような人生を送りたくない」と感じたんです。
その頃職場では中間管理職でしたが、日曜日の夕方に「サザエさん」の音楽を聞くたびに体調を崩すようになって。
農家になったのは、「サザエさんシンドローム(会社に行きたくなくて憂鬱になる症候群)」が嫌で、それに耐えられなかったのもありますね。
川端美希子(以下、川端美) :あの頃は家中が暗かったです。月曜日になると主人の具合が本当に悪くなり会社は休むし。だから、「農業をやりたい」と本人から打ち明けられたときには、反対はしませんでした。
ただ当時の私は出産間近で、「何をふざけたことを言っとるん」と両方の親からは猛反対されました。
そのうえ主人は、インフルエンザA・B型に同時にかかるくらい身体が弱くて。農業は身体が資本の仕事ですから、不安がなかったと言えば嘘になりますね。
川端崇 :皆信じてくれないですけど、僕は色白で華奢やったんですよ。れんこん農家を始めてから急に肩幅が広くなって、外見も中身も変わったんです。
澤 :昔の姿が想像できないです(笑)。念願の仕事につかれて、川端さんの心境はどう変化されましたか?
川端崇 :楽しいですね。「この仕事につけて幸せだな」と常に思っていますし、就農して12年たつんですけれど、農業には全然、飽きない。
澤 :以前のご主人の様子とは、随分違うのではないでしょうか?
川端美 :自然との闘いやスタッフの教育も含めて、物づくりは難しくて大変そうですけれど、本人が好きに動いて楽しんでいるので良かったと思います。
川端崇 :「大変さ」を楽しんでいる、まさにそんな感じですね。
共働きサラリーマン家庭から、夫婦で農業を営む暮らしへ
胸まで水に浸かり、ホースの水でレンコンの周りの泥を飛ばす「水堀り」と呼ばれる方法で収穫される加賀れんこん
澤 :企業に属する働き方をしながら、土と触れ合う機会もある人は、たとえ地方に住んでいても少数派ではないかと思います。大地と離れた生活をしている私たちに、自然と共に生きる暮らしから川端さんたちが得ているものを教えてもらえますか。
川端崇 :僕は自然と触れ合うことで童心に帰れるというか、大人になっても童心を抱えていられます。
加賀れんこんを手探りで探すのは、宝探しのようです。作業中顔に泥がついても、逆に喜んでいるところがあって。会社員生活では自然のなかで何かをすることはないので、そこが何より新鮮ですよね。
澤 :美希子さんはいかがですか?
川端美 :私は幼稚園で働いていたんですけど、園児を世話していたのに、自分の子どもはみてあげられなかったんですね。
娘の友だちが誰かもわからないし、病院に子どもを連れて行くのも難しかった。家では持ち帰り仕事に追われ、いつも時間に余裕がないのが当たり前でした。
でも、れんこん農家が忙しくなり、私も仕事を退職して一緒に働くようになったら、生活スタイルが変わりました。仕事よりも子ども優先でいられるようになったんです。「農家になって良かったな」と思いましたね。
川端崇 :サラリーマン時代を振り返ると、自分でも「ロボットみたいになってる」と自覚がありました。いつか農業をして「人間らしく生きたいな」と夢見ていましたが、いま実現しています。
澤 :人間らしさを取り戻した、ともいえそうですね。
自然と共に生きる暮らしと農家時間
川端美 :以前は、晩御飯の時間が夜8時でした。それが今では、先にお風呂に入ってご飯を食べ終わっても、まだ7時半。規則正しい生活といいますか、時間の過ごし方に無理がなく、余裕をもって暮らしていけるようになりました。
農家には、「農家時間」が流れているんです。時間の余裕ができて、子どもたち(高1、小5、小1)との触れ合いが増えましたね。
子どもたちが学校から帰る時間帯も、私は家のそばの納屋で作業をしています。他にもお祖母ちゃんやお祖父ちゃん、いつも周りに誰かしら大人がいてくれる。こういう環境は、子どもたちにとっても安心なんじゃないかな。
澤 :仕事と暮らしに良い意味で隔たりのない、ゆったりとした在りかたが羨ましいです。
川端美 :私は女性スタッフ3人と主人の父と、収穫した加賀れんこんの箱詰めや出荷作業を担当しているんですけれど、こんなに楽しくていいのかな、と思いながら仕事をしています。
育児や家の話をして笑っているうちに、気がつくと作業終了時間がきます。
「あっ、もうこんな時間だね!」と、皆で驚くほど時間の経つのが早い。1日が充実している証拠でしょうね。
主人は私たちに「仕事をしっかりすれば、あとは自由にやってくれればいい」と言ってくれてもいます。
ですから、自分も含めスタッフ全員、子どもが熱を出せば仕事を休むし、学校行事を優先していますね。たとえば、マラソン大会のときは途中で抜けて応援に行くとか…(笑)。
農業は「3K(キツイ、汚い、暗い)」と日陰者のように思われがちですが、実はそんな仕事じゃない。農家時間は、子育てにも優しいです。
澤 :むしろ明るいですよね。個人的には、農家の生活スタイルは子育て世代にぴったりだと感じました。
自然と人とつながり、そこから世界が広がっていく
農業女子グループ「石川なないろ~I☆M☆J~」。左から3番目が川端美希子さん。
澤 :農家になられて、人間関係にも変化があったのではないでしょうか?
美希子さんの所属されている農業女子グループ「石川なないろ~I☆M☆J~」と、(株)ルバンシュのコラボレーションから、ハンドクリームが製品化されました。お二人の専門分野外の方々との交流も多そうですね。
川端美 :主人が農家になったからこそ、この12年の間に、サラリーマンのときには考えられない、いろんな方たちとの出逢いがありましたね。
澤 :会社員だった頃とは、また違ったカタチでのお付き合いが広がっていく感じでしょうか。
川端崇 : 農家になって元気になれたのは、自然との触れ合いだけではなく、やはり人との出逢い、いろんな人に支えられたからでもあるんですよね。
加賀れんこんをシェフの方に使っていただき、そのシェフから(株)ルバンシュの千田社長を紹介してもらうといった風に次々と人の輪が広がり、皆さんに感謝しています。
澤 :加賀れんこんを媒介に、「ご縁」がつながっていくイメージですね。
川端崇 :人とつながるためには、自分から様々な場所に出向いて喋らなくてはいけないし、受け身ではいられません。加賀れんこんを認めてもらうためには、僕を認めてもらう必要がありますから。でも、それも面白いんです。
お互いに本音でぶつかったときに、そこからどんな新しいものが生まれるか。
可能性が知りたくて、未来がますます楽しみで、これからもれんこん作りはやめられないですね。
澤 :農業は「3K」どころか、自由に自分らしい人生を創造していける可能性に満ちた職業ですね。本当に豊かな「暮らし」について、考えさせられました。
まずは「農家時間」のエッセンスを、自分の暮らしに取り入れてみます。
紫外線ケア、界面活性剤不使用、口に入っても安心
畑の国のアリス ハンドクリーム
農業に従事する女性たちと、ルバンシュのコラボレーションで生まれた、やさしさいっぱいのハンドクリーム。1,500円。
れんこんの仄かな甘みを、能登の塩が引き締める
加賀れんこんちっぷ
海を越えたフランスでもおやつとして人気。安心の無農薬・無添加。
60g 600円(税込)
【農事組合法人「蓮だより」の取り組み】
http://doronko-farm.com/
「蓮だより」では、加賀野菜の代表格の「加賀れんこん」やブロッコリーなどその他の野菜を、土づくりからこだわり無農薬で栽培しています。今後は、すべての加工食品(氷温熟成加賀れんこん・加賀れんこんパウダー・加賀れんこんちっぷ 等)の自社工場製造を目指し、新工場建設を予定しています。
ものづくりだけではなく、生産者と消費者をつなぐ活動にも、「蓮だより」は積極的に取り組んでいます。れんこん収穫を実際に見学してもらう産地見学や、シェフとコラボしての畑で収穫された野菜を味わう食事会、農作業体験などは、これまで世代を越えた多くの方々に喜ばれてきました。これからも皆で笑顔になれるイベントを計画していきます。